【いつか深い穴に落ちるまで】

いつか深い穴に落ちるまで.JPG
第55回文藝賞受賞 山野辺太郎 河出書房新社
発案者は、運輸省の若手官僚、山本清晴だった。日本とブラジルとを
直線で結ぶことはできないか。そう彼は考えた。
カウンターテーブルには、飲み干された焼酎のコップと、
皿に残った数本の竹串。発案に至るまで、妙な言葉の
連なりが、脳裏をぐるぐるとめぐっていた。
底のない穴を空けよう。肉のかたまりに、串を刺す。
すると、底のない穴ができる。地球にだって、それはできる。
土のかたまりに、底のない穴。できるはずだが、串はどこにある?
そして突然、新しい事業の種がこぼれ落ちたのだ。
地球に突き刺す串がどこにあるのかは、
追い追い探ってゆけばよいだろう。
困難な道のりが始まるとも思わず、彼は楽観的だった。
会計を済ませて、やきとり屋を出ると、夜空を
うっすらと覆った雲を透かして、光の強い星が
いくつか、点々と姿を見せていた。
沿道には、波形のトタンや黒ずんだ木材をミノムシのように
接ぎ合わせてできた窮屈なバラックが立ち並び、闇市を
かたちづくっている。1945年の敗戦から、まだ
幾年と経っていなかった。受けて側のブラジルにも、
「オーケー。その話に乗ろう。
エキサイティングな計画じゃないか」
と承諾を得て、予算をめぐる大蔵省との果てしないと思われた
攻防にも、終止符の打たれるときがきた。
研究開発中のリニアモーターカーの予算に
混ぜ込むということで折り合いがついたのだ。
この内密の事業を請け負うために、大手建設会社の
子会社が設立された。
運輸省から省の外郭団体へ、外郭団体から親会社へと
ゆだねられた穴の工事を請け負い、施工するのが
この会社の役割だ。
そこに入社して広報係となったのが、僕だった。
海外からの訪問者との繋がりや、友好が描かれたり。荒唐無稽な
プロジェクトに淡々と粛々と時は過ぎ去ります。
読者は、チョット眉に唾を塗りたくなります。
選評の抜粋
「温泉が出たというのはけっきょくのところ最善の結果では
あったのだ。などと巧みに論点と言葉をすり替えながら、
小説は突き進む。作者のそうした胆力技量の高さを
評価したというよりはむしろ、小説という表現方式を信じる力の
強さと、想像力の勝利に打たれて、私はこの作品を絶対に
世に出したいと思った。(磯﨑憲一郎)
『学研まんが、できるできないのひみつ』という本に
「地球のうらがわまであなをほって荷物を送れるか?
という章があり、この小説とそっくりな命題が
検証されているのですけれど中略
文科系の土木小説。この野蛮さは大物の証拠かもしれません。
(斎藤美奈子)
山野辺氏は端正な容姿で、東大大学院卒業です。
小説家としての伸びしろを評価されているのも頷けます。
2019年1月12日朝日新聞デジタル書評コーナーでも、
山野辺氏の作品だけが書評されております。
同時受賞は日下英之氏「はんぷくするもの」です。
2019年冬号に文藝賞受賞後作品として「孤島の飛来人」が
掲載されていました。
『自動車会社で働く「僕」は六つの風船を背中に背負って、
ビルの屋上から旅立った。目指すは父島。だが、
たどり着いた先は・・・』
穴を空けていく次は風船で空かい?という感じが否めない。
もっと、世間とか人間の真相に迫って欲しいと思います。

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