【あちらにいる鬼】

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「あちらにいる鬼」 井上荒野著 朝日新聞社
作者の父 井上光晴と、私の不倫が
始まった時、作者は五歳だった。 瀬戸内寂聴
帯に書かれているように、井上光晴氏と郁子さん、
寂聴氏との三角関係を娘である荒野さんが遂に、
書いてしまった!
寂聴氏が亡くなるのを待っていたように書いたのではなく、
寂聴氏の後押しがあり書いたという。
亡くなってから書くよりも、「今でしょ!」とばかりに
書かれたことに納得する。
はっきりした根拠なく、私は瀬戸内晴美には
反感を抱いていた。生き方や、書く内容に、
受け入れないものを強く感じていた。
それは出家して寂聴になっても変わらない。
井上光晴氏を「文学伝習所」で知り、小説を
書いて、批評を受ける講座に参加した頃は
二人の関係に関しては、まだ知らなかった。
「文学伝習所」は小説では
文学学校「文学水軍」として書かれている。
未就学児の娘を連れて参加した時に、娘へ向けて、「あなたのお母さんは一生懸命に
小説を書いているよ!」などと声かけてくれた。大人が喧々諤々と文学論を戦わしている中にあって、
娘はノートに何かを書いたり、絵本を読んだりしていた。
私の書いた小説は、妻子ある男との子供を産もうか、どうしようか、
迷いながら教会の玄関を開ける・・・そんな、ありきたりの陳腐な作品だった。
井上氏は、新潟市は佐世保に似ていると言っていた。河口が好きだと。
詳細な言葉の応酬が蘇る。
受け入れることが出来ない瀬戸内晴美と井上氏の関係を知って、正直ショックを受けた。
その頃、郁子さんは婦人雑誌にモデルとして載っていて、その佇まいを窺い知ることができた。
荒野さんは文学賞を受賞した後、その後新刊で名前を探すことが出来なかった時期が
あったが、やはり、父の血を引いて、父、母、寂聴と三人の立場と言葉で書かれていて、とても上手いと思う。
井上氏の”超熱烈信奉者”は「文学伝習所」の洗礼を受けた人たちが全国に数多いる。
井上光晴信者ともいうべき人たちと、一般読者とでは、受け止め方は異なると思う。
朝、新潟駅前でビルの建て替え工事現場で、巨大なクレーンを仰ぎ見ると「虚構のクレーン」と
いうタイトルが頭に浮かぶ。私にとっての「虚構のクレーン」が書ける日は来るのだろうか・・・

あちらにいる鬼
朝日新聞出版
2019-02-07
井上 荒野

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