【風花病棟】

医師であり作家である人は多くいて作風も様々です。

私がまず、惹かれて多く読んだ作家は加賀乙彦氏です。
次には帚木蓬生氏でした。

両氏共に精神科医と言うことで共通しています。

外科や内科の医師&作家とは異なる切り口で小説を書いているので、惹かれる所以です。

久坂部羊氏からひとまず離れて、帚木蓬生氏に戻ってきました。

氏は作家としてのスタートを始めた時に或る編集者から「医師は辞めないでいた方が良いですよ」
と言われ、しっかりした仕事を持って、好きな作品だけをじっくり書いて下さいと言われたと何かで読みました。

1年に1作長編小説を上梓するというスタンスを保ってきたそうです。

ですが、小説新潮で山本周五郎賞の特集をするので、歴代受賞者として短編を連載して欲しいと慫慂されたと
文庫版あとがきに書かれていて、年に1回の長編を破り、短編に着手したそうです。

「メディシン・マン」
「藤棚」
「雨に濡れて」
「百日紅」
チチジマ」
「顔」
「かがやく」
「アヒルおばさん」
「震える月」
「終診」

これらの作品が収録されたのが「風花病棟」です。


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「閉鎖病棟」「三度の海峡」等、長編にこそ、帚木蓬生氏の良さが
発揮されている思っていましたが、見事に裏切られました。

【ただひとつ気になる点があった。結末にオチやヒネリ、どんでん返しがなければ、短編の面白みは
半減すると聞く。私にはそんな技術めいたものはない。
今更無い袖も振れまい。通説を無視することにした】


文庫版あとがきに書かれていますが、オチもどんでん返しなどなくても、最後には何故!
ジンワリと涙が滲んでくるのを止めることが出来ない作品が多いのは何故!!

医療現場を担うのは名医でもなく悪医でもなく、「普通の良医」なのだ。
と書いています。

此処には各専門の医師が登場します。
女医も登場します。
長編にも成り得るような内容で、このまま、例えば、テレビドラマになったら良いのに・・・
と思ってしまいます。

「メディシン・マン」
メディシン・マンとは「医療祈祷師」「伝統治療師」と訳されるそうです。
同級生だった男二人である時舟で釣りに出かけ、釣果がなかなか上がらずに
ビールなど呑み、寝てしまった。
気づくとO君の姿が無い。釣り竿ごと海に落ちて亡くなっていたのだ。
T君とO君は好きな女性の事で口論したこともあり、O君の家族からは疑われていたのだ。
短時間麻酔薬で半睡眠状態に置いて、真実を述べさせると言う治療の事を書いたものです。

「藤棚」
骨盤に腺癌の転移が見つかった女性患者は幼い子供もいて新聞社でタウン誌の編集をしていた。
夫のたってのお願いで本人には告知をしないでくれとのことで、女性患者は直って仕事に
復帰したら・・・と言う希望で治療に当たっていた。
病室から見える藤が見事で、退院したらこの藤の事、そして特等席は市立病院の内科病棟だと
タウン誌に書くわ、と話していた。が彼女は亡くなり、葬儀に参列して、あの時余命を
告げていれば、幼い子供に何か書き残しておけたかもしれないと後悔した。

自分もその後結婚し女の子を授かったが事故で亡くしてしまう。
その子との思い出にも藤が出てくる絵本があった。

「雨に濡れて」
片方の乳房を削除した自身も癌患者の女性内科医の話。
通常は看護師任せにするような世話も進んでして、患者の話にも耳を傾けている。
亡くなった老婦人の子供が母の遺言だと言って、生前話した自分の田舎の話に興味を
持っていたので、先生に山桜が咲く村の事を教えに来る。

「顔」
上品なご主人に付き添われて、女性がサングラス、肌色マスクで耳鼻咽喉科から廻ってきた。
サングラスとマスクを外すと・・・
其処には鼻と両眼球が抉り取られた顔が露出したのだ。
腐った組織をデブリードマン(切除)された顔。
商社マンと客室乗務員だった頃に知り合い結婚した二人でしたが、色々と故郷の
話しなど聞く内に、その女性が高校の同級生で、自分の憧れの女性(ひと)だったのだ。
眼も鼻も抉れた顔なので、最初は想像するつかなかったが・・・
最後まで、自分も同じ故郷だとは言わなかったと。

「かがやく」
宮田さんはアルコール病棟では最長の入院患者だった。
「精神科病院」と言うのは一時的にいるべき場所で終の棲家ではないですよ。
と言い、退院して通院と自助グループへの参加で断酒生活を続けましょう。
と言うと「退院せぇと言うのは、わしに死ねということですね」
と反発される。病棟と病棟の間の花の植樹、掃除等々きめ細かく働く宮田さん。
が、癌になり亡くなる。

「チチジマ」
小笠原諸島の父島でアメリカ人のマイケルと「私」は戦争の終盤僅かな時間を共に過ごし、
本来は敵同志なのに、マイケルは「私」を「戦友」と呼ぶ。
亡くなったと夫人からの手紙が届く。
感染症学会がサンディエゴが開かれるので、出向き、マイケルの夫人と会う。
終戦までの五か月、私たち陸軍病院の敵は米軍ではなく、栄養失調とアメーバ赤痢
だった。そんな虱と飢えとアメーバ赤痢に対する戦いに明け暮れた父島での
生活で、鮮明な記憶として残っていたのが米兵救出劇だった。
僅か2時間の父島滞在の米兵がずっと日本人の軍医を「戦友」として思っていたのだ。

この一遍は後に、帚木氏が日本医療小説大賞の第1回を受賞する
「蠅の帝国」に収められている。

「終診」
当クリニックにおいて三十年間診療をして参りましたが、古稀を迎えるにあたり、
本年六月二十七日、金曜日をもって引退致します。
こんな張り紙を張り、同門の後輩医師が引き続き、この医院を継続してくれることになった。
正に終診の患者、看護師等々との思いでが書かれた、この最後の作品を書いて後、
氏は、本当の意味での終診に入ってしまったのです。
ご本人も何と言うタイトルの巡り合わせか!と。
「文庫版あとがき」にはこれを書き上げたのが初仕事から十年目の2008年五月。
そして掲載号発売の半月後に、氏本人が「急性骨髄性白血病」を得た。
治療は半年に及ぶと言う。
<終診>が頭をかすめたが、
【通院中の患者さんへ
この度、急な病気(急性骨髄性白血病)で入院治療することになりました。
治療には数ヶ月を要し、その間の診察は、私の親しい先生方に交代でしていただきます。
どうか、これまでどおり、診察を受けて下さるようお願い致します。】

「病んだ治療者」としての立場を書いたこともあるが、ご本人自らがなってしまったのです。

その後、治療は終わり、氏は病床で書いた三作品を「遺言三部作」と称しています。

闘病中に「水神」を病床で「ソルハ」を再発を恐れながら「蠅の帝国」「蛍の航跡」を書きました。

三部作と称した三作品が上梓された時の新潮社「波」はもう出版社には在庫切れでした。
が、ネットの中古品で1円で買いました。

「蠅の・・・」「蛍の・・・」の文庫もそれぞれ1円で買いました。

ネットでの中古本1円は状態も良く、其処に送料257円が掛かってきます。

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                          新潮社「波」 2011年12月号

私は、ようやく前段階の本書を読み終え、遺言三部作に入ります。

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アサリ入り炊き込みご飯・塩麹の一夜漬け・鮭焼き・女池菜・山芋梅和え・

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モヤシを微塵に切って、嵩増しした鮭&卵チャーハン・女池菜・グリーンアスパラ塩麹和え

今は、塩麹に嵌っています。

【肉抜きの 夕餉続きて 「水神」を 読み進む夜は 穏やかなりき】

一日の命は、めぐり合うものによって、水を吸ったスポンジのように満たされて終わります。

一日、一つ短歌を詠みたい!
下手は当然、添削も無しですが・・・

目の前を悠然と流れる筑後川。だが台地に住む百姓にその恵みは届かず、人力で愚直に汲み続けるしかない。助左衛門は歳月をかけて地形を足で確かめながら、この大河を堰止め、稲田の渇水に苦しむ村に水を分配する大工事を構想した。その案に、類似した事情を抱える四ヵ村の庄屋たちも同心する。彼ら五庄屋の悲願は、久留米藩と周囲の村々に容れられるのか──。新田次郎文学賞受賞作。


まだまだ、読み始めたばかりです。

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風花病棟 (新潮文庫)
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2011-10-28
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この記事へのコメント

やま・ゆり
2016年03月31日 01:00
私も読んでみたくなり、中古品を注文しました。
私はいつも中古品です。
お料理も、いつも参考にさせていただいてます。
「苦い薬」には憧れてます。
2016年03月31日 01:56
やま・ゆり様
短編とは言え、何か核のような芯のような読後感がズシリと残ります。
是非お読み下さい。
私の料理は料理と言えるほどではなく、出来るだけシンプルに作って食べると言うだけです。
風花爺さん
2016年04月01日 20:17
帚木蓬生さんの名前は知っていますが、作品は多分一作も読んでいないと思います。
医師で作家というと南木圭士さんの作品はたいがい読んでいます。
『阿弥陀堂だより』とか『ダイヤモンド・ダスト』がよく読まれているようですが、山に関連した作品も幾つかあり『草すべり』とか『山行記』などがあります。
作家の数も星の数ほどあり、選択が悩ましいですね。
2016年04月02日 04:49
風花爺さん様
医師で作家=南木 佳士さんは代表作(ダイヤモンドダスト・山行記・草すべり・阿弥陀堂だより)など読みました。ほんわりした感じで、山に関連した著書等、時々、再読したくなる作家ですね。
帚木蓬生は、もっと、狭く、深く掘り下げた「人間」への愛情が満ちていて、他の医師作家にはない雰囲気が「渾身を込めて」書いている感じで惹かれます。
今「水神」を読書中ですが、私の苦手な時代物で、氏の今まで読んだ作風とは異なり、進みが遅いです。
もし、興味を抱きましたら、是非、帚木蓬生デビューされてみて下さい。
そうした場合、短編集は手に取り易いかもしれませんね。