【「木を接ぐ」&「雛の棲家」】

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「雛の棲家」 佐伯一麦著 福武書店
佐伯一麦は名前は何となく知っていたが、本は読んだことはなかった。
或る地方文学賞の審査員に名前が載っていて、受賞者よりも審査員に
他に男性1名、女性1名の合計三名の審査員の中から佐伯一麦に
興味が湧き、デビュー作品から読んでみた。
「雛の棲家」の中に収められている「木を接ぐ」が事実上のデビュー。
1984年「海燕新人文学賞」受賞。福武書店が開催していたこの新人文学賞は
現在活躍している女性作家も多い。懐かしい。この新人賞から始まり
1990年「ショート・サーキット」で野間文芸新人賞受賞。
翌年には三島由紀夫賞を受賞して芥川賞こそ逃したが、順調に
大きな文学の賞を手中に収める。
この間、私は何を読んでいたのか?村上春樹か?小川洋子か?
仕事と子育てで忙しかった時期だ。
「木を接ぐ」(雛の棲家 所蔵)
深夜に妻は破水をして病院へ入院する。
彼と彼女は共に21歳。
彼は進学率の高い高校に在学していたにも係わらず中退して
働き、その合間に喫茶店で小説を書いたりしていた。
その喫茶店、夜はアルコールを出す店になる。
そこで金のない彼にこっそり千円札を彼女から渡されて
それを機会にその夜から彼女と暮らすことに。
いろいろの男と関係を持っていた彼女は、三度も
子供を堕ろしたことがある。彼と一緒に暮らすように
なっても、しばらく性関係を持たなかったので、妊娠したのと
月が合わない。水子供養の紙を何枚も隠し持っていたりする。
母は兄を出産する時に、難産で心臓病を悪化して大変だった。
彼を妊娠した時には産む気はなかったのに、夫の強い薦めで産むことに。
何かある度に「お前は本当は生まれれてくるはずじゃなかった」と
言われ続けていた。彼と諍いした後に、彼女は部屋にガスを放つ。
幸い、割れたガラスにカレンダーを貼っていたことと、近所の
人の通報で助かった。彼は「妻が私も道連れにしようとしたことに、
私は不思議なことに深い満足感を覚えていた。
(俺を殺そうとした女と一生暮らすのも悪くない)と彼は思う。
「褐色の感情」という言葉が何度か出てくるが、濁った、汚れた
感情でさえ、空白よりは心を埋めてくれるというのか?

「雛の棲家」
光枝と鮮(あきら)は同級生で17歳。
私生児を身籠った光枝は退学して、こっそりと産婦人科で出産をする。
鮮(あきら)は住民票などで父の故郷を調べて産婦人科を探り当てる。
こっそりと産婦人科を出奔した二人は、小さなアパートで家族3人の
小さな所帯を持つ。新聞配達をして母子の生活を支える鮮(あきら)
ここでも、鮮(あきら)は前作品と同じく母からの「お前はいらない子」と
しての罵声を浴び続ける。彼は密かに実家の鏡台の裏に「ボクのはか」と
彫刻刀で刻む。幼い頃から自己抹殺の衝動に苦しめられた。
その淵から這い上がることができたのは「自瀆」だったと書いている。
佐伯氏の作品は何回漢字が多い。自身を抹殺する行為の最中に偶然
自瀆を知る。幼い時に少年によって性の辱めを受けて、一切そうした
行為が出来なくなった。
(僕はこの女(母)から自由なんだ。と喜びめいた感情で受け止める
ことができるようになった。どうせ、人から望まれない生存なら
自分だけの手でどこまで生きられるか試してやれ、と開き直りにも
似た渇望が生まれた)
この二作は若き佐伯少年が脱皮するための踏み台であるのだろう。
次作からは彼の子供も増えて、仕事に係わる問題も提起されるようだ。

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