【犬のかたちをしているもの】

文芸誌「すばる」は毎号買う訳ではないが、時折図書館で借りる。
2019年11月号は「第43回すばる文学賞受賞作品」が掲載されていた。
さっと、読んで返したのだが、昨今テレビでAというコンビのWという
男の不倫が賑わっていて、それに関連して受賞作品の結末が気になって
再読した。私は、本当に、記憶中枢が衰えていて、本、ドラマ、映画等々
結末を忘れてしまう。数年を経て、再読することも多く、記憶が薄れたら
再読すれば良いと思っている。
この回まで選考委員をしていた高橋源一郎氏は、氏の「小説の書き方」の
書で、まず、タイトルが選考委員の胸にズシンとくると、受賞確率は
半分以上だと、言っていたことがあった。
「犬のかたちをしているもの」は、私は犬には特に深い思い入れはなく、
過去にも飼ったことはない。
そして、普通に、このタイトルには???であった。
案の定、高橋氏の選評
前略:受賞作になったのが高橋隼子さんの『犬のかたちをしている
もの』。最初にタイトルを見たとき、これはいいなという
予感がした。そして、その予感は最後まで裏切られなかった。
高橋さんの作品のいちばんいいところは「複雑」なところだった。
そして、それはおそらく、小説でしか表現できない、思考と文体を
駆使しなければできない「複雑」さだった。セックス、男女関係、
妊娠、東京と地方、繊細に物語は紡がれるが、作者が書こうと
しているのは「それ」ではない。もっとずっと熱っぽい何かだ。
すばる文学賞の選考委員としての最後の仕事に、この作品を
送り出すことができてとても嬉しい。
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30歳のわたし(薫)は卵巣の手術をした所為で、同居
している恋人郁也とのセックスが疎ましくなってくる。
郁也を気遣いつつも、郁也は薫を愛しているのだから、
セックスだけが全て繋がりを保つ強固な糸とは思って
いない。ところが、或る日、ミナシロと名乗る女性が
郁也の子を身籠った。セックスするだけの関係で
薫さんと別れて欲しいとか、そんなことは望んで
いないという。子供が出来てしまったことは
大いなる誤算で、自分は子供など好きではないと
言う。郁也とのセックスも割り切ってしている。
だけど、堕胎は怖いから、とにかく産む。
産む直前に郁也と籍を入れさせてくれ。
子供が生まれたら、離婚する。
あなたは郁也を籍を入れて、子供を育てて。
と言う。
「ねえ」
わたしは郁也に尋ねる。
「お金って、いくら払ってたの?一回あたり」
「・・・・・一万円」
泣き声のまま郁也が答える。
お金に困っている訳ではないだろう。
割り切った関係ということなのだろう。
思い出したことがある。
もっと若い頃、文章を書く場で知り合った
私より3歳若かったJ子さんは20歳以上も
年齢が上の幼稚園やその他事業をしている男
から毎月、結構なお金を貰って生活していた。
「それって、愛人なの?」
と問うと「女の身体は価値のあるものなのだから
好きだというだけで、見返りを求めないというのは
有り得ない。」と言った。
妻が居て、子供のいるWは、不特定多数の女性と
ただ、ひたすらセックスをして1万円札1枚
渡して、その瞬間には、犬のようなかたちで
所作は終わる。
ミナシロさんは実際子供を出産すると、自分で育てたく
なったと翻る。誰のお腹から産まれても郁也の子供で
あることには変わりなく、その内に郁也はわたしの
元を去っていくかもしれない。
郁也には、薬を飲むのを止めたことを言っていない。
中略
ミナシロさんのところへ行ってしまうかもしれない。
分かりやすく目に見える形がすでにある場所へ。
郁也は満たされる。同時に傷つく。
傷ついてほしいと、わたしは思っている。
だってそうしないとわたしが生きていけないから。
明日からどうしようかな、何を見て、何を聞いて、
どうやって生きていこうかな。何をよすがに、
何のために、何を言い聞かせていれば、
まるで自分のために、何を言い聞かせていれば、
まるで自分のために生きているみたいに、息が
できるんだろう。
高瀬隼子さんは1988年愛媛生れ 東京都在住
センター分け、ストレート髪の聡明な美人である。
物語は全てフィクションだという。

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